会計人のサラリー調査(IMA’s Global Salary Survey)

SF201803

米国管理会計人協会(IMA)では毎年会計人のサラリー調査を行って発表しています。

とりわけ、CMA(R)(米国公認管理会計士、Certified Management Accountant、CMAはIMAの米国での登録商標です)の保有者が賃金面でいかに優遇されているのかを調査するところに問題意識があります。

私もアンケートに回答しましたが、残念ながら日本では今時点CMAは200人にも満たず、十分な回答を得られなかったからか、日本としての個別の数字は開示されておらず、アジア(ほとんどが中国とインド)の中に含められています。

以下、結果のサマリーです。

CMA保有者は非保有者より67%高い報酬を得ている

【私の見解】
仮説として理由は3考えられます。
1.CMA保有が高く評価され、そのことが報酬額を引き上げている。
2.そもそも高い報酬を勝ち取り得る高い実力の持ち主だからこそCMA試験を突破できている。
3.CMA試験を受験し、これを取得することが契機となって能力が高まった。

少なくとも日本では、1よりも圧倒的に2・3である可能性が高いでしょう。

特に下級管理者においてその傾向が顕著である

CMA保有者は非保有者に比べて、
・下級管理者層では、+88%
・中級管理者層では、+60%
・上級管理者層、+61%
・経営者層、+40%
高い報酬を得ていると報告されています。

IMAでは、このように説明しています。
「下級管理者層においては、しばしばCMA資格取得することによってダイレクトに賃金が上がる制度が存在する」
日本でも資格手当という制度を持つ会社は珍しくません。

【私の見解】
上位職位に進むほどCMAと賃金との関係性が薄まるのは、ある意味当然です。資格を持っているだけで高い賃金が保証されるほどビジネス社会は甘くはありません。
それでも、いずれの階層においても大きな差があるのは、ほぼ間違いなく上記2もしくは3が理由と考えられます。

CMA(米国公認管理会計士)保有者は
CPA(米国公認会計士)保有者より高い報酬を得ている
CMA・CPAダブル保有者が最も高い報酬を得ている

【私の見解】
CMAが職業独占資格であるCPAよりも報酬面で優位である、というのは意外感があるかもしれません。
日本で会計の最高資格と言えば言うまでもなく、公認会計士だからです。

しかし、米国のCPAと日本の公認会計士とを同じように考えない方が良いと私は考えています。

米国のCPAは財務会計(外部報告目的の会計)の専門家であり、監査をその業務としている人たちであり、日本の公認会計士とはかなり異なるように思います。
米国では管理会計を中心とした経営管理については、CMAの守備範囲となっています。
日本の公認会計士も本来的な業務は米国CPAと同じ監査ではありますが日本の場合、より広範な業務(ファイナンス、M&A、時には経営コンサルティングまで)をこなす専門家集団と考えられます。
もちろん、日本の公認会計士も監査法人に属しておられる方々は、監査がメインで米国CPAと実質的には変わらないのかもしれませんが、、、

そのような監査は言ってみれば単純な法適用論であり、企業経営への貢献という意味では、「資本市場からの円滑な資金調達」ということが大半の意義であり、
より深く広く経営にかかわるCMAの方が高い報酬を得ているというのは、ある意味当然なのかもしれません。

また、単純な法適用論は人間よりもコンピュータが圧倒的に得意とする分野であり、将来性の観点からも価値は下がり続けると予想されます。

「CMA・CPAダブル保有者が最も高い報酬を得ている」については、当然ということだろうと思います。

結論

【私の見解】
1.職業独占資格ではないCMAや当協会が主催する認定管理会計士・管理会計検定などは資格取得や試験合格という事実よりも、むしろそこに至る過程での能力開発、そして取得後のたゆまぬ自己研鑽と実務への適用努力が非常に重要であると言えます。

2.コンピュータに容易に置き換えられる職業専門家を目指すよりも、より経営に深く広く係る専門職能を開発することが重要です。

3.その意味でCMAや当協会が主催する認定管理会計士・管理会計検定などは日本においても今後重要性を増し、ビジネス社会からの注目を得るようになると思われます。

最後は多少手前みそ気味になりましたが、ひいき目を除いても大きく結論は変わらないでしょう。

 

管理会計の資格と教育については下のリンクからお進みください。

JEIMAのロゴマーク

 

 

ROEが重要と過度に煽る危険性

昨日の日経トップは高すぎる日本企業の自己資本比率がROEにマイナスに働き、株価に悪影響を与えているというものでした。

日本経済新聞は以前からROEと株価との強い相関関係を強調しています。
私も日経新聞が言う以前から、定期的に行っている上場企業の財務分析を通じてこのことは認識し発信してきていますから、そのこと自体は一切否定するわけではありません。

ただ、株価を上げるためにROEをもっと高めるべきである、自己資本を圧縮してでもこれを行うべきである、というような主張だけが独り歩きすることの危険性を感じざるを得ません。
このことに強い問題意識を持っていますので、これまでも何度か話題にしてきています。
⇒ROE至上主義への警鐘(http://sakuramichi.net/herbist/20160228-01/

理由はいくつかあります。

1.ROEはキャッシュを保証しない
「ROE=純利益÷自己資本もしくは株主資本」で計算されることは言うまでもありません。
この計算式の中にキャッシュの概念は一切含みません。
利益は一定の裁量の範囲内で人為的に計算された抽象概念に過ぎません。
その証拠にROEが10%~16%ありながら経営破綻に至った上場企業も存在します。
(日本綜合地所、平成21年2月会社更生法申請)
ROEを信じた多くの投資家が多額の損失を被ったことは想像に難くありません。

2.極端に振れる傾向のある日本
ROEを高めるための近道は、有利子負債を増やすことです。
有利子負債を増やして意味のある投資を行うならまだしも、前掲ブログにあるような借入で得た資金で自社株買いを行うようなことは本末転倒と言わざるを得ません。
日本社会は右に倣えで極端に振れる傾向がありますので特に危険性を感じます。

3.不正、あるいは粉飾
ごく最近、知り合いの企業で不正があったことを聞かされました。
売上の前倒し計上にかかわるものだったとか。
不正を行った社員には厳しく対する必要があります。
しかし、そんな不正を行わせるような組織のあり方そのものに問題があると気づく必要があります。
損益のみを唯一の価値とした経営がそこにあったことは否めないでしょう。
小さな不正はいずれ組織をゆるがす取り返しのつかない大きな結果につながるということは誰しも気づいているはずです。

さて、ROEに一定の意義を見出しつつも、それだけに偏らない経営のあり方を考える必要があります。

あのフィリップ・コトラーが日本人のためだけに書き下ろした
「コトラー マーケティングの未来と日本」
の中に明確にそのための指針が示されています。

コトラー氏は行き過ぎたアメリカ流の資本主義に警鐘を鳴らしながら、一方で日本における「共同体主義(よいコミュニティや隣人をつくり、モノをシェアし、お互いに助け合うことを大切にする)」(同書P.164より)に一定の評価を与えておられます。
そして、より賢く望ましい資本主義のために必要なこととして、以下の点を示しておられます。(同書P.174より)
○企業には、利益を追求するだけでなく崇高な目的がなければならない。
○株主のことだけを考えるべきではない。ステークホールダーの視点でビジネスを行えば、それが結果的に、株主の利益にもつながる。
○企業には意識の高いリーダーシップがなければならない。
○意識の高い企業文化を経営陣は有しなければならない。

これに付け加えるとするならば、実務的には以下の点も大切だと言えます。
○財務的業績においてはキャッシュを一層重視する
損益は粉飾できでもキャッシュフローは粉飾できません。
○不正のトライアングルを未然に取り除くことに意識を向け、仕組みを構築する
この点についても以前話題にしています。
⇒東芝の不適切な会計処理~不正が起きやすい環境とは~(http://sakuramichi.net/herbist/20150705-01/
つまり、不正が起きやすくなる3つの要因(正当化、機会、プレッシャー)を取り除くための仕組みを作ることです。
上記のキャッシュ重視もそのひとつですが、更に単独で販売や財務情報を改変できない業務分担や売上や利益に偏った業績評価の改正なども必要です。

ROEの問題から不正に多少飛躍した感がありますが、ROEに限らずひとつの価値基準だけで物事を運ぶことは非常に危うい、そのことに気づくことができれば良いのではないかと感じた次第です。

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メルコ学術振興財団創立10周年記念国際シンポジウム その1

4月7日・8日の2日間、メルコ学術振興財団創立10周年記念国際シンポジウムに出席してきました。

この財団は、日本的経営の考え方や技術を世界に発信することを目的に、パソコン周辺機器のメルコが資金を出す公益財団法人ですが、今現在は管理会計分野の日本での実務・研究成果を世界に発信しています。

そのようなことから、今回も管理会計に関するいくつかの報告がありましたので、実務に役に立ちそうなことを中心にいくつかご紹介しておきたいと思います。

1.「JALにおけるアメーバ経営による変革について」(日本航空執行役員 米澤章氏)
これまで公開されてきた情報も含めて、参考になるそうな点を箇条書きにします。

①「アメーバ導入前は、各部署はコストを考えずにそれぞれの担当においてサービスの向上のみを求めて業務を行っていた。アメーバによって収支責任を持たせることによって、特にコスト意識が高まった」

この点は、アメーバにとどまらず独立採算的組織運営の効果として共通に指摘される点です。
ただ、独立採算的組織運営を成功裏に行うにはいくつか課題があります。
・会社全体ではなく各部門の部分最適が優先されるという弊害があり得る
・内部振替価格や本社費共通費の配賦方法を誤ると逆にモラールが低下する恐れがある
・セクショナリズムが横行する恐れがある
このような弊害をいかにクリアしたのか、そこが最も明らかにしたい点です。

②「収支はアメーバ間の社内取引によって計算する仕組みにした」
③「ひとつのアメーバは10~15人ぐらい、業務全体を各自が見渡せる範囲であることが重要」

解説いただいたことを踏まえて、想像も交えて解説すると、例えば、路線事業本部は客室部門や整備部門からサービスを購入し、営業部門である旅客販売統括本部に席を売る、客室部門はフライトごとにサービスの対価を受け取り、一方でサービス原価を支払ことで収支責任を負うなどということかと思われます。

④内部取引価格の設定は明言されなかった

ただ、「マーケット価格」という言葉がレジュメにあったことから、おそらく市場価格を基本において、当事者間の交渉によって決めてるのではないかと想像されます。
この点はこれまで出版された調査レポートや稲盛氏ご自身の著書にも交渉価格を基本とすることが明示されています。

⑤「月1回の業績報告会はまる2日間かけてみっちりと行われる」

後で出てくるフィロソフィーに照らし合わせ、相当厳しい指摘と議論がなされているのだろうと想像できます。

⑥「JALフィロソフィーを作りその教育に、例えば2時間/回×25回×5年間という具合に多頻度高密度に教育を実施した。稲盛氏の考えをJALの実態に当てはめて丁寧に紐解き共有をはかるというこの作業と、その結果として収支の改善につながるということによって、フィロソフィーが浸透していった」

このような徹底した教育こそがアメーバ経営を実効ならしめるうえで最も重要なポイントだろうと想像されるわけです。単なる内部振替による部門別損益だけなら、下手をすると部分最適にばかり走り顧客視点を持たないセクショナリズムに陥る恐れがあり、その意味で価値観の共有はいくらこだわってもこだわりすぎるということはないということなのです。

つまり、アメーバはひとつの仕組み、いわば土地の上に立つ建物、その建物を頑強ならしめるのは仕組みそのもの以上に、土台であるということですね。

(つづく)

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メルコ学術振興財団創立10周年記念国際シンポジウム その2

2.「トヨタ自動車の原価企画~コストを作り込む~」(SBI大学院大学 小林英幸氏 元トヨタ原価企画責任者)
JALの話題同様、箇条書きにします。

①「トヨタにおける原価企画は『顧客に受け入れられる販売価格で利益を確保できる目標原価を設定し、サプライヤーを含むすべての関係者の協働によってその目標原価の達成を図る活動』と定義されており『予定価格-目標利益=目標原価』の式で表すことができる。この場合の販売価格は市場が決め、目標利益は会社の意思である」

トヨタにおける原価企画の歴史と現状における体制などが語られましたが、以下個人的に面白かった箇所をお示しします。

②「原価企画体制は3次元マトリックスになっている。
車両軸(カローラ、カムリ、プリウス等)、部品軸(ボディ、シャシー、電子、エンジン等)の2次元マトリックスに更に原価企画手段(RR-CI、VA、部品標準化)ごとの委員会活動軸を加えた3次元マトリックスで原価企画にとりくんでいる」
注)RR-CI=Ryohin Renka Cost Innovation (良品廉価イノベーション)

③「目標原価は低め一杯のストライク。甘ければ簡単に達成、低過ぎれば見送られる」

具体的に次のような興味深い枠組みが示されました。

コストとCVIから目標原価を決める方法

そして、この目標値からのかい離の大きい部品を重点的にフォローすることで重点指向を維持しておられるとのことでした。

最後にトヨタのコストダウンについてお話しになった次のお言葉が印象的でした。
「乾いた雑巾を絞る」のではなく「乾いた雑巾も放っておくと湿ってくる」

3.「管理会計の効果を高める組織能力」(中央大学商学部准教授 福島一矩氏)

この報告では、

管理会計などの管理システムの利用は組織業績との間に一定の関係を見出すことは難しいということを前提に(つまり、管理システムを利用するだけでは業績向上につながらない)

「企業外部に存在する新たな知識・情報の価値を認識し、取り入れていくことによって既存の知識や組織ルーチンを変化させるような組織の吸収能力の高さが」管理システムの利用が組織業績につながるためのキーである。

そのような仮説を証明しようとする研究の成果に関するものでした。

要は価値ある情報を外部から得る能力が高いほど管理システムが有効に機能し、結果として組織業績向上に貢献する、そういうことを証明したいということだった訳です。

学界における研究というのは、よく素人、あるいは実務家からすると「当たり前」に思えることを証明するということに向けられることがあります。

研究ではアンケート調査をベースにした統計的分析が行われ、

◎「戦略的業績管理の利用は吸収能力の高い組織では組織業績に対して与える影響を高めることができることが確認された」と結論づけられました。

ついつい、真っ先に手を挙げて質問させていただきました。

質問1:
吸収能力の高さは良き戦略構築の可能性を高め、そのことが業績に貢献したと考えるのが自然だと思うが、その点はどうお考えか?

質問2:
吸収能力の内容としてはどのようなものを想定されたか?

それぞれ丁寧にご回答いただきましたが、その直後に櫻井通晴先生から、同じような質問だがと前置きした上で次のようなお話がありました。

「吸収能力の高さが業績に貢献するというのは感覚的に当たり前のことではないか」
「吸収能力の内容についてもっと深めた研究が必要ではないか」

尊敬する櫻井通晴先生のお言葉、「我が意を得たり」でした。

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利益計画は経営方針を具現化する道具である

今月は、久しぶりに財務ゲームを使った利益計画演習を2度実施しました。
1回は某超大企業の関係会社での研修会、1回は三菱UFJリサーチ&コンサルティング主催のセミナーでした。

さて、利益計画とは何のことか?
管理会計検定のテキストでは、「単年度の経営計画、あるいは3~5年程度の中期経営計画において、利益と売上高、費用の目標と、それをどのように達成していくかを示す計画」のことと定義しています。

経営方針とは何か?
様々に定義されますが、私は「経営目標+経営戦略」と定義しています。

さて、ゲームでは、まず目標利益を決めていただきます。
次にその目標利益を達成するための施策を各グループで検討していただき、その結果を数字で表現していただきます。
何らかの施策は費用に影響を与えます。
費用の増減、売上の増減を勘案しつつ目標利益を達成する方法を考えていただきます。

検討のプロセスにおいて、利益公式を使って様々にシミュレーションしつつ、目標利益を達成できる現実的な施策を明らかにしていだくことになります。

利益公式1
売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率

たったこれだけの単純な公式を使って、シミュレーションをするわけです。

検討の結果として決定した施策は審判に通知されます。
各グループから施策が出そろったら、審判の方で一定のルールで各グループへ受注高が割り振られます。

この結果を受けて各グループで決算を行う、そのような流れて何サイクルか同じことを繰り返すというわけです。
そのプロセスにおいて、経営施策と損益との関係を体で覚えていただきます。

ところで、利益公式にはもうひとつあります。

販売数量=(固定費+目標利益)÷単位当たり限界利益

この公式を使ったシミュレーション演習としていつも受講者の皆さんにやっていただくのが、お好み焼き屋さんの利益計画です。

経営施策は数字に反映されます。
お好み焼屋さんの場合、例えば、

客数10,000人=(固定費500,000円+目標利益200,000円)÷1人当たり限界利益70円

これは、どういう経営方針を示しているでしょうか?
明らかに薄利多売型、
顧客1人当たり限界利益70円の構造は、販売価格100円-1人当たり変動費30円=70円
これはもはやお好み焼ではありません。
大阪で一時人気があったキャベツ焼きです。
薄利多売にするために固定費を抑え気味にしているところを次の例との比較で感じ取ってください。

客数200人=(固定費1,000,000円+目標利益600,000円)÷1人当たり限界利益8,000円

これはある会社の研修会で実際にある方から出されたパターンです。
1人当たり限界利益8,000円、これももはや単なるお好み焼屋さんではありません。
ステーキや伊勢海老などを提供する高級な鉄板焼き屋さんをイメージします。
高級路線ですから、店の内装もこだわり、サービスも充実し、広告宣伝にもお金を使うため固定費は1,000,000円と高くなっています。

利益計画とは、このようにどのような経営施策を講じるのかということと密接不可分につながったものである必要があります。
昨対+5%・・・などといった過去の延長線上の予算編成などとは本質的にその意味が異なります。

変化を続ける経営環境の中、環境に適合し、必要な利益を確保するためには、競争優位性の高い戦略を構築する必要があります。
そのような戦略は数値目標との整合性を持った時に初めて意味のあるものになります。

戦略なき数値計画には意味がありません。
そして、数字の裏付けのない戦略は実現しない運命にあります。

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粉飾を見破るひとつの方法

粉飾とは、わかりやすく言うと、「ルールで認められた裁量の範囲を超えて、利益を水増した決算を行うこと」です。

ルールの範囲内あればある程度利益操作はできるという意味でもありますが、、、
それはともかく、最近では東芝の例(なぜか粉飾という表現は避けられましたが、、、)が記憶に新しいところです。
このケースでは巨額の工事受注案件を中心に行われており、この後で述べる方法だけではなかなか見破ることは難しいですが、
一般的な粉飾であれば私の経験上、結構な確率で目の付け所を当てることはできます。

どんな方法か、意外に簡単です。

それは、経常損益と経常収支とを比較するとうことです。
経常損益と減価償却前経常利益のことです。
一方経常収支は経常損益に売掛債権の増減、棚卸資産の増減、買掛債務の増減を勘案して資金の収支を計算したものです。

計算式で表すと、
経常損益=経常利益+減価償却費
経常収支=経常損益±売掛債権増減(増はマイナス)±棚卸資産増減(増はマイナス)±買掛債務増減(増はプラス)(時には、±前払費用±仮払金などの流動資産を調整)
となります。

損益と資金収支ですから当然同じにはなりません。
しかし、単年度では一致しなくても3年ぐらいの合計ではおおよそ一致してくるものです。

特に、経常損益>経常収支の関係が3年以上続いたりしていたら要注意です。
経常収支は嘘をつけません、キャッシュは現物ですから、
一方経常損益は粉飾の対象です。

例えば、期末の在庫を水増しして売上原価を圧縮する操作をすれば、棚卸資産が増加しますので、その分が経常収支ではマイナス要素となり自動的に粉飾は打ち消されます。
売上を水増し・前倒ししても売掛債権が増加しますので同じ結果になります。
仕入除外して売上原価を圧縮する操作を行うと、買掛債務が減少し経常収支ではマイナス要素になります。
このとき買掛債務支払期間の異常が短縮化が同時に見られます。

このような売上原価の操作によって粉飾する場合には、通常売上総利益率(粗利益率)が異常に上昇したりします。

最近あったある会社のある期、こんなケース、かなり怪しいです。

経常損益 174,606千円 前後5年合計  284,587千円
経常収支 -47,566千円 前後5年合計 -146,514千円 
棚卸資産滞留月数(前後5年間の動き)
 1.0か月 0.7か月 1.5か月(当期) 1.2か月 0.4か月
売上総利益率(同)
 8.9% 10.6% 15.5%(当期) 10.3% 8.9%

また、前払費用、仮払金などといったその他流動資産の異常な増加を伴うこともたびたびあります。
つまり、本来費用処理しなければならない取引を資産として計上し、翌期以降に繰り越すということが可能だからです。

更に粉飾をしているときには、時として税率が異常に低下することがあります。
提出された税引前利益と申告上の所得との間に大きな差があることを示唆しています。

専門的には、ほかにもテクニックはありますが、
ごく簡単にあたりをつけようと思えば、大雑把にいうと、損益とキャッシュフローを比較してみるといことになります。

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突っ込みどころ満載の「酒の安売り規制」

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21日の報道(日経新聞電子版21日の一部を引用)によると、

「財務省と国税庁は酒類の過度な安売りを防ぐため、量販店などに科す罰則の基準をまとめた。原価と販管費の合計額を下回る価格で販売を繰り返した場合、違反業者の免許を取り消せるようにする。安売り業者の台頭で経営に苦しむ中小の酒販店を守る狙いがあるが、企業の自由な価格競争を阻害する懸念がある。」

などということになっているようです。
本音には、酒類価格の安定化によって酒税収入を安定化させたいということがあるとも思いますが、、、今回は管理会計と経営戦略的な視点から少し考えてみたいと思います。

突っ込みどころ、その1
「原価と販管費の合計額」とあります。
小売店にとって原価即ち売上原価は変動費ですから単位当たりの原価の計算は容易です。
しかし、小売店の販管費は販売用資材費など一部を除くとそのほとんどは固定費です。つまり単位当たりの原価は明確ではありません。
管理会計の基礎の基礎ですが、念のため簡単な例で示しましょう。

<前提条件>
ある日本酒一升の仕入価格=1,500円
販売時に使用する手提げ袋=5円
お店の月間固定費(ほとんどの販管費)=3,000,000円
固定費の配賦基準=(話を単純化するために1単位当たり均等)
販売数量1=10,000本前提  販売数量2=15,000本前提
<当該商品の販管費を含む単位当たり原価>
販売数量1の時の総原価=変動費1,505円+固定費3,000,000円÷10,000=1,805円
販売数量2の時の総原価=変動費1,505円+固定費3,000,000円÷15,000=1,705円

誰が見ても明らかです。単位当たりの固定費配賦額は販売量によって変化します。たくさん売れば売るほど単位当たりの固定費負担額は少なくなっていきます。
”管理会計”などと大げさに言わなくでも商売の基本、子供でも分かる理屈です。

となると、役所は総原価計算における前提となる販売数量を決めなければなりません。それぞれのお店ごとに。そんなことできるわけがありません。

突っ込みどころ、その2
もし役所が、上記の前提となる販売数量についてなんらかの基準を強制するということになると、それはまっとうな経営努力を否定することになります。
つまり、販売数量を増やすことによって単位当たりの固定費負担額を引き下げる、あるいは固定費そのものの無駄を省く、更には仕入価格を引き下げる努力をする、そのようにして引き下げた原価を原資にした低価格販売をも否定することになります。
規模の経済性やコストを下げる仕組みを作ることを前提として、低価格販売に競争力を求めるのは、コストリーダーシップ戦略という立派な戦略のひとつです。
そのようなオーソドックスな戦略を否定するとするなら、もはやそれは自由主義経済を否定することと言っても過言ではありません。

突っ込みどころ、その3
このような規制によって、安売り業者の台頭で経営に苦しむ中小の酒販店を守る必要が本当にあるのか、そこは議論しているのだろうかとの疑問もあります。
努力しなくてもお上が守ってくれる、そんなことをまた繰り返すのか、そんな気持ちにもさせられます。
その昔、大型店の進出で衰退に歯止めがかからなかった商店街や小規模小売店、
そんな中でも自らの努力で大型店にはない競争力を身につけようと努力し、成功した多くの事例を見てきました。

酒販店でも同じです。
私はある酒蔵に関与していますし、趣味で唎酒師の資格も持っています。 そんなことから、特徴的な小規模酒販店の事例を少なからず知っています。

保護政策によって延命をはかるような施策は、「一億総活躍社会」とは無縁のものではないのか、そんな風に感じております。

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「日立工機」の売却価格と「海の森海上競技場」の建設費がほぼ同じっ!? ~企業価値と投資収益性を考える~

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今週5日に日立グループが事業の一層の選択と集中を進めるために、シナジーがあまり見込めそうにない日立工機などの売却を発表しました。

日立工機は、1948年設立、連結 6,528名 単独 1,372名、連結売上高約1,400億円の主に電動工具を製造販売している大企業です。
売却予定額は約500億円とか。
売却金額はどうやって決まるのでしょうか?
色んな方法があるでしょうが、代表的な方法が将来の業績予想から企業の現在の価値を測定する企業価値計算です。

細かい説明はここでは割愛しますが、おおよそしたの図のような考え方です。
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将来得られるであろうキャッシュを割り引いて合計する、というのが基本的な考え方ですが、企業は永続しますので下のような特別な割引計算を行うことになります。

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日立工機の過去5事業年度のフリーキャッシュフローを試算してみたのが下の表です。
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仮に、起点におけるフリーキャッシュフローが30億円、目標投資利益率を8%、フリーキャッシュフローの年成長率を3%とすると、日立工機の企業価値は次のようになります。

将来のフリーCFの現在価値=30億円÷(8%-3%)=600億円

企業価値=将来のフリーCFの現在価値-有利子負債=600億円ー383億円(2016年3月31日現在)=217億円

この計算からは、売却金額500億円は将来の成長をかなり見込んでいることになります。
ちなみに、日立グループの持ち株比率は大よそ50%ですので、全体では1000億円、この前提ですと、年率大よそ6%の成長が必要ということになります。

かくのごとく、民間セクターにおいては厳しい投資収益性が求められる現状があります。
資源の無駄使いの観点からも好ましいことです。

翻って、公共セクターはいかがなものでしょうか?

東京オリンピックのカヌー・ボート競技場に予定されている海の森水上競技場の建設費は約491億円と報じられています。
競技環境の劣悪さから競技者からも反対の声が上がっていますが、そのことは専門家ではない私には判断がつきませんしここでの主題ではありません。

公共施設なので収益性だけで測定するべきではないでしょう。
こういう話になると”オリンピック・レガシー”という言葉を安易に持ち出す人もいます。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会によると、
①大会終了後に競技会場をスポーツ・エンターテインメント施設、選手村の跡地を文化・教育関連の拠点とする「物理的レガシー」

が規定されています。

さてさて、無形の価値(レガシー)を勘案するにしても6,500人の社員と1400億円の売上をあげる大企業とこの競技場とが果たして同等の価値を持つと言える人が何人いるのでしょうか。
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あんなにお金かけちゃって、今更ご破算はないよっ!? ~豊洲移転問題に思う~

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あんなにお金かけちゃって、今更ご破算はないよっ!?

危険な言葉です!

さて、テーマは豊洲市場問題です。
地下空間の話や、その謎や責任についての話ではありません。

あくまで管理会計としてこの問題を少しだけ考えてみようという気になりました。

豊洲新市場に費やされた資金は、
総額で5,884億円(用地取得、土壌汚染対策費など)
建設費だけでも2,747億円に上ると言われています。

今朝、ゆっくりとコーヒーを飲みながらバラエティー番組をぼーと見ておりました。
豊洲市場を扱っています。
出演者のひとりがおっしゃいました。
「あんなにお金かけちゃって、今更ご破算はないよっ!」

「そらそうだ。当然だ。」
と反射的に同意してはいけません。

管理会計において「どの代替案を選択しても同様に発生する、あるいは既に発生してしまっている原価」のことを埋没原価(Sunk Cost)と呼び、
意思決定においては考慮しない、ことになっています。

意思決定においては未来の変化だけを扱う、ということを意味します。
ある意味当然です。

意思決定おいて、
過去の支出は「もったいない」と考えることもなければ、
逆に過去の支出を将来における原価(特に減価償却費)アップとして見ることも
しません。(減価償却費の増加によるは節税効果はどの選択肢を選んでも確定しているならば考慮する必要無し)

例えば、あなたが休日に車ででかけたとします。
高速料金を入口で1,000円支払いました。
ところが、高速道路上で事故が発生、大渋滞です。
このままだと目的地まで5時間もかかってしまうと予想されます。

しかし、一番近い出口で高速を降りて一般道で行けば3時間で行けると予想されます。

こんな時、あなたは既に支払った1,000円が惜しいのでこのまま高速に乗り続ける、そう判断しますか?

大切なことは、未来における新たな支出、そしてこのケースでは到着に要する時間が重要でしょう。(その他の要因があっても、それらは全て未来の事象です)
つまり、過去の支出1,000円は未来において返金されるなどによって取り返せないとするなら、もはや意思決定において考慮に入れる必要がないということになります。
当たり前すぎる理屈です。
でも、額が大きくなるとそんなふうに当たり前に考えることができなくなる人が少なくありません。

豊洲における埋没原価はいくらでしょうか?
正確にはわかりません。
既に支出した資金であっても、土地や設備を売却によって回収できるものもあるかもしれません。

結局、未来における2つの選択肢(豊洲に移転、築地に残る)を
市場(東京都)のキャッシュフローと、
入居する卸売業者や仲卸業者のキャッシュフローの
両面から比較するしかありません。

例えば、市場自身(東京都)のキャッシュフローなら、

豊洲に移転する場合の未来における資金収支
○プラス
・家賃収入アップ(?)
・移転後の築地の有効活用による収入(うまくやらないとマイナスになる可能性も)
・販売額増加に伴う税収アップ(?)
○マイナス
・追加の汚染対策費
・豊洲新市場の設備維持に伴う費用増加分
・移転に係わる費用(東京都負担分)
・築地の有効活用のための投資

築地に残る場合の資金収支
○プラス
・豊洲における土地や設備の売却?
○マイナス
・設備更新に伴う支出
・汚染対策費(?)
・業者などへの損害賠償金
・オリンピック関連支出の増加額

などは考慮する必要があるでしょう。(他にも重要なものがあるかもしれません)

もちろん、キャッシュフローだけで全てが決まるわけではありません。
・安全に関する風評
・築地の観光資源としての評価
・両市場におけるオペレーションにおける効率性
・オリンピックの運営に与える影響
などなど

いずれにしても、犯人捜しばかりに熱心にならず、
そろそろ未来志向で検討するべき課題をリストアップする作業にかかってはどうかと思います。

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日本管理会計学会参加報告

明治大学9月1・2日に東京の明治大学で開催された日本管理会計学会に参加しました。

今回の学会では、バランスト・スコアカードとも関係が深い「インタンジブルズ」(無形資産)への関心がより一層高まっている印象を受けました。

インタンジブルズとは「財貨の生産またはサービスの提供に貢献するかそれらに用いられ、その利用をコントロールする個人または企業に対して将来の生産的便益を生み出すと期待される非物質的な要因」(Blair an Wallman, 2001, PP.51-56)のことを言います。(出典:日本管理会計学会誌「管理会計」2010年第18巻第2号「インタンジブルズとレピュテーション・マネジメント」櫻井通晴先生著)

具体的には「すぐれた研究開発成果、技術革新や経営上の革新、独自の組織デザイン、人的資源、高い評判など」(出典:「コーポレート・レピュテーションの測定と管理」PP.1 櫻井通晴先生著、同文館出版)

そのような背景の元、若手の研究者の先生方が販管費と業績との関係を分析した報告などをしてくださいました。(インタンジブルズは貸借対照表に資産として計上されず、販管費の中で費用として計上される)
日本において下方硬直性の高い(容易には削減できない)人件費を多く含む販管費全体と将来の売上との相関を分析するのは無理があるのではないかと、私個人の印象としては感じました。

しかし、インタンジブルズと業績との関係に関する研究は、いずれ実務界にも意義ある成果を提供してくださるだろうと期待しています。

さて、実務家として、特に最近の仕事との関係で興味深かったご報告が2つありました。

一件目は、山形大学の准教授、柊紫乃先生のご報告です。
柊先生は、中小企業の管理会計を実際の企業現場に頻繁に足を運んで現場の人たちと議論し一緒に仕組み作りを行う、まるで我々コンサルタントのようなユニークな先生です。
先生からは、実例のご報告をいただきました。
面白かったのは、見積原価のシミュレーションシステムです。
「直近の工場の稼働時間をベースに受注製品の基本生産能力、受注見込み数量をパラメータとして」簡単に見積原価を計算するシステムを構築しておられます。

見積原価は、通常1定期間は前提条件を固定化して行うことが多いと思いますので、受注状況を迅速に反映したシミュレーションシステムという点がユニークだと感じました。

私がずっと提唱している「量産効果を先取りした価格見積り」、つまり前提としての操業度を未来における仮定のものとして行う柔軟な見積原価計算ということですが、これと共通の考え方を感じ、未来志向でのシミュレーションも行われるのかという点をご質問したところ、「いかなる前提でもシミュレーションできる仕組み」とのことで、我が意を得た気持ちでした。

二件目は、東京理科大学名誉教授 田中雅康先生のご報告でした。

原価企画の理論と実践

田中先生は学会の重鎮で原価企画・VEにおける日本の第一人者でいらっしゃいます。
後で知ったのですが、1935年生まれでいらっしゃいますから、今年81歳になられますが、とてもそんなお歳とは見えない、溌剌とした厳しさと少しのユーモアを含んだとってもすてきなご報告でした。

ちなみに私が今から20年あまり前30代の頃に読んだこの本は、VEを学ぶ方の必携書です。私の本はもうぼろぼろになっています。

VEバリューエンジナイアリング

内容は、コストテーブルに関するご提言でした。

・日本を代表するような企業でも、見積原価計算の基本的具備事項が守られておらず、原価計算に詳しい先生方はもっと産業界の指導をしなきゃいけない、との厳しいご指摘がありました。

・見積原価計算の発展段階を具体的にお示しいただきました。
例えば、製造原価以外の原価見積への拡張(梱包、物流などの原価見積)、競合品の原価情報、将来の主要な材料などの価格変動予測モデル、開発設計関連システムと連携する原価見積システム(設計変更による原価シミュレーション等)、など

・見積原価計算システムの高度化により、見積原価計算は専門家が介在しない一般的業務化することができる。

なかなか、すべてを理解しここでご紹介するには私の力が不足していますが、実務の観点から非常に示唆に富んだご報告でした。

学会報告は、ともすれば調査分析技法に多くの労力を割いたわりには実務界に対する示唆に乏しいものが少なくありませんが、
私にとって、産業界ともつながりの多い先生方の問題意識を知る上でとっても貴重な機会になっています。

次回は是非、私からも事例報告ができれば考えております。

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