昨日の日経トップは高すぎる日本企業の自己資本比率がROEにマイナスに働き、株価に悪影響を与えているというものでした。

日本経済新聞は以前からROEと株価との強い相関関係を強調しています。
私も日経新聞が言う以前から、定期的に行っている上場企業の財務分析を通じてこのことは認識し発信してきていますから、そのこと自体は一切否定するわけではありません。

ただ、株価を上げるためにROEをもっと高めるべきである、自己資本を圧縮してでもこれを行うべきである、というような主張だけが独り歩きすることの危険性を感じざるを得ません。
このことに強い問題意識を持っていますので、これまでも何度か話題にしてきています。
⇒ROE至上主義への警鐘(http://sakuramichi.net/herbist/20160228-01/

理由はいくつかあります。

1.ROEはキャッシュを保証しない
「ROE=純利益÷自己資本もしくは株主資本」で計算されることは言うまでもありません。
この計算式の中にキャッシュの概念は一切含みません。
利益は一定の裁量の範囲内で人為的に計算された抽象概念に過ぎません。
その証拠にROEが10%~16%ありながら経営破綻に至った上場企業も存在します。
(日本綜合地所、平成21年2月会社更生法申請)
ROEを信じた多くの投資家が多額の損失を被ったことは想像に難くありません。

2.極端に振れる傾向のある日本
ROEを高めるための近道は、有利子負債を増やすことです。
有利子負債を増やして意味のある投資を行うならまだしも、前掲ブログにあるような借入で得た資金で自社株買いを行うようなことは本末転倒と言わざるを得ません。
日本社会は右に倣えで極端に振れる傾向がありますので特に危険性を感じます。

3.不正、あるいは粉飾
ごく最近、知り合いの企業で不正があったことを聞かされました。
売上の前倒し計上にかかわるものだったとか。
不正を行った社員には厳しく対する必要があります。
しかし、そんな不正を行わせるような組織のあり方そのものに問題があると気づく必要があります。
損益のみを唯一の価値とした経営がそこにあったことは否めないでしょう。
小さな不正はいずれ組織をゆるがす取り返しのつかない大きな結果につながるということは誰しも気づいているはずです。

さて、ROEに一定の意義を見出しつつも、それだけに偏らない経営のあり方を考える必要があります。

あのフィリップ・コトラーが日本人のためだけに書き下ろした
「コトラー マーケティングの未来と日本」
の中に明確にそのための指針が示されています。

コトラー氏は行き過ぎたアメリカ流の資本主義に警鐘を鳴らしながら、一方で日本における「共同体主義(よいコミュニティや隣人をつくり、モノをシェアし、お互いに助け合うことを大切にする)」(同書P.164より)に一定の評価を与えておられます。
そして、より賢く望ましい資本主義のために必要なこととして、以下の点を示しておられます。(同書P.174より)
○企業には、利益を追求するだけでなく崇高な目的がなければならない。
○株主のことだけを考えるべきではない。ステークホールダーの視点でビジネスを行えば、それが結果的に、株主の利益にもつながる。
○企業には意識の高いリーダーシップがなければならない。
○意識の高い企業文化を経営陣は有しなければならない。

これに付け加えるとするならば、実務的には以下の点も大切だと言えます。
○財務的業績においてはキャッシュを一層重視する
損益は粉飾できでもキャッシュフローは粉飾できません。
○不正のトライアングルを未然に取り除くことに意識を向け、仕組みを構築する
この点についても以前話題にしています。
⇒東芝の不適切な会計処理~不正が起きやすい環境とは~(http://sakuramichi.net/herbist/20150705-01/
つまり、不正が起きやすくなる3つの要因(正当化、機会、プレッシャー)を取り除くための仕組みを作ることです。
上記のキャッシュ重視もそのひとつですが、更に単独で販売や財務情報を改変できない業務分担や売上や利益に偏った業績評価の改正なども必要です。

ROEの問題から不正に多少飛躍した感がありますが、ROEに限らずひとつの価値基準だけで物事を運ぶことは非常に危うい、そのことに気づくことができれば良いのではないかと感じた次第です。

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