今日の日経新聞の経済教室に「高等教育への公的支出 多い国ほど生産性高く」という記事が掲載されていました。

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投稿者は、関西学院大学学長の村田治氏です。
村田治先生と言えば、財政学をご専門とされる日本を代表する経済学者のおひとり、
そんな偉い先生がおっしゃっているのだから、素直に聞けばいい、ついついそう思ってしまいます。

しかし、計数分析を専門にしている、あるいはちょっとへそ曲がりな私、疑ってかかる嫌な癖があります。
そもそも関西私大の雄関学の学長さんが、要はもっと「大学への公的支出を増やすべし」と言っておられるわけですから、結論ありきの議論である可能性も否定できません。

企業実務においても、あるいは白書類においてもよくあることです。

まず結論があり、そしてそれにあった事象を探し出す。

以前仕事でご一緒した、中小企業白書の編集に携わったことのある方のお言葉を思い出します。
「まず、中小企業施策が決まる、そしてその施策が正しいことを証明するデータを集める」

気をつけたいですね。

さて、本題に戻ります。
実は村田先生ご自身も”見せかけの相関である可能性も否定はできないが”とおっしゃっているように、あくまでこのご主張は仮説の段階です。

そもそも相関そのものが見せかけである。
あるいは、相関があるからといって因果関係にあるとは限らない。
そんなことがよくあるわけです。

まずは、村田先生がお示しになっている相関を表す散布図を引用させていただきます。
(出典:日本経済新聞平成29年1月9日朝刊経済教室面)

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これを見せられると信じたくなります。

そこで、考えるためのヒントを2つご覧いただきます。
いずれの事例も出典は「問題解決ファイシリテーター」(堀公俊著、東洋経済新報社)です。(必読の名著です)

(因果の逆転)
一つ目は、相関があっても因果の方向がいずれかわからないということです。

%e5%9b%a0%e6%9e%9c04暴力シーンを見るから暴力行為をするのか、
暴力行為をする人だから暴力シーンをみるのが好きなのか、
いずれが真の因果かこれだけではわからないということです。

(第3の因子)
二つ目は、第3の因子が隠れている場合です。

%e5%9b%a0%e6%9e%9c05朝食をとらないから非行に走る、
のではなく、
第3の因子「家庭が荒廃」が両方の原因になっている可能性があるということです。

さて、そんな目で村田先生の仮説を検証してみましょう。

まず因果の逆転はないのか?
「公的支出が少ないから労働生産性が低い」
ではなく、
「労働生産性が低いので、労働者一人当たりの税収が少なく、結果として高等教育機関への公的支出が絞られる」
という因果、無いとは言い切れません。
企業において、業績不振時にまっさきにカットされるのが教育費であることを考えるとこれもあり得そうに思えます。

%e5%9b%a0%e6%9e%9c02 ただ、これを検証するには、少なくとも
労働生産性→労働者一人当たりの税収
労働者一人当たりの税収→高等教育機関への公的支出額
という2つの因果を証明する必要があります。

二つ目、第3の因子は潜んでいないか?
ここは想像力を膨らませて考えるしかありません。
例えば、「理系学生の数」などというのが第3の因子候補となりえます。
つまり、「理系学生の数が相対的に少ないから生産性が下がる、更には理系学生の数が相対的に少ないから公的な支出が抑えられる(理系は文系よりも研究費が多額になります)」
といった具合です。

%e5%9b%a0%e6%9e%9c03ここまで考えてもうひとつ思い当りました。
実は第4の因子があるのかもしれないと、
つまり「経済のサービス化」です。
図に表すとこんな感じです。

%e5%9b%a0%e6%9e%9c07いずれもあくまで仮説、
なんらかの方法(証明するデータを得る、実験してみるなど)で検証されるまでは断定してはいけません。

しかし、このような事例に行き当たったら是非このように仮説をたてる練習をしてみることは分析力を高め、実務能力を高めるために非常に意味のあることです。