img_3554t
21日の報道(日経新聞電子版21日の一部を引用)によると、

「財務省と国税庁は酒類の過度な安売りを防ぐため、量販店などに科す罰則の基準をまとめた。原価と販管費の合計額を下回る価格で販売を繰り返した場合、違反業者の免許を取り消せるようにする。安売り業者の台頭で経営に苦しむ中小の酒販店を守る狙いがあるが、企業の自由な価格競争を阻害する懸念がある。」

などということになっているようです。
本音には、酒類価格の安定化によって酒税収入を安定化させたいということがあるとも思いますが、、、今回は管理会計と経営戦略的な視点から少し考えてみたいと思います。

突っ込みどころ、その1
「原価と販管費の合計額」とあります。
小売店にとって原価即ち売上原価は変動費ですから単位当たりの原価の計算は容易です。
しかし、小売店の販管費は販売用資材費など一部を除くとそのほとんどは固定費です。つまり単位当たりの原価は明確ではありません。
管理会計の基礎の基礎ですが、念のため簡単な例で示しましょう。

<前提条件>
ある日本酒一升の仕入価格=1,500円
販売時に使用する手提げ袋=5円
お店の月間固定費(ほとんどの販管費)=3,000,000円
固定費の配賦基準=(話を単純化するために1単位当たり均等)
販売数量1=10,000本前提  販売数量2=15,000本前提
<当該商品の販管費を含む単位当たり原価>
販売数量1の時の総原価=変動費1,505円+固定費3,000,000円÷10,000=1,805円
販売数量2の時の総原価=変動費1,505円+固定費3,000,000円÷15,000=1,705円

誰が見ても明らかです。単位当たりの固定費配賦額は販売量によって変化します。たくさん売れば売るほど単位当たりの固定費負担額は少なくなっていきます。
”管理会計”などと大げさに言わなくでも商売の基本、子供でも分かる理屈です。

となると、役所は総原価計算における前提となる販売数量を決めなければなりません。それぞれのお店ごとに。そんなことできるわけがありません。

突っ込みどころ、その2
もし役所が、上記の前提となる販売数量についてなんらかの基準を強制するということになると、それはまっとうな経営努力を否定することになります。
つまり、販売数量を増やすことによって単位当たりの固定費負担額を引き下げる、あるいは固定費そのものの無駄を省く、更には仕入価格を引き下げる努力をする、そのようにして引き下げた原価を原資にした低価格販売をも否定することになります。
規模の経済性やコストを下げる仕組みを作ることを前提として、低価格販売に競争力を求めるのは、コストリーダーシップ戦略という立派な戦略のひとつです。
そのようなオーソドックスな戦略を否定するとするなら、もはやそれは自由主義経済を否定することと言っても過言ではありません。

突っ込みどころ、その3
このような規制によって、安売り業者の台頭で経営に苦しむ中小の酒販店を守る必要が本当にあるのか、そこは議論しているのだろうかとの疑問もあります。
努力しなくてもお上が守ってくれる、そんなことをまた繰り返すのか、そんな気持ちにもさせられます。
その昔、大型店の進出で衰退に歯止めがかからなかった商店街や小規模小売店、
そんな中でも自らの努力で大型店にはない競争力を身につけようと努力し、成功した多くの事例を見てきました。

酒販店でも同じです。
私はある酒蔵に関与していますし、趣味で唎酒師の資格も持っています。 そんなことから、特徴的な小規模酒販店の事例を少なからず知っています。

保護政策によって延命をはかるような施策は、「一億総活躍社会」とは無縁のものではないのか、そんな風に感じております。

banner