住友ゴムとグッドイヤーとの提携解消のニュースが大きく取り上げられています。
もともとこの2社は1999年に提携し、共同で日米欧の市場開拓をしてきました。
住友ゴムは業界3位であるグッドイヤーの強固な販売網を活かし、そしてグッドイヤーはブランド力の高いダンロップブランドを使用するという相互補完的な提携でした。
しかし、この2月にグッドイヤー側から住友ゴムを反トラスト法違反で訴えたことから提携解消の動きが一気に加速したようです。
さて、この間の両社の状況を概観してみましょう。
まずは、市場の動きです。
大手3社はじりじりとシェアを落としています。
ブリジストンは新興企業の成長の中で何とかシェアを維持していますが、ミシュラン、グッドイヤー、とりわけグッドイヤーの凋落が著しいことがわかります。(グッドイヤーは2013年についに10%を割り込み9.4%になっています)
次に両社の業績推移です。
住友ゴムはリーマンショックによる落ち込みがありましたが、その後急拡大を実現しています。
一方のグッドイヤーは、2012・2013年と不振にあえいでいます。
この差については、住友ゴムの地域別売上の推移を見るとひとつの仮説がたちます。
日本や北米に比べて、アジアやその他の新興国における売上が急拡大し、業績の向上を支えていることがわかります。
グッドイヤーにしてみれば、焦燥感があったのだろうと想像できます。住友ゴムとの提携によって成長著しいアジア・新興国でのマーケティングに制約がある。新しい成長市場における開拓にフリーハンドを取り戻したいと思っても不自然ではありません。しかも、提携を解消してもダンロップブランドは、欧州と北米での非日系企業にたいしては使用し続けられるわけですから。
一方の住友ゴムにしても、あるいは今回の解消は渡りに船だったのかもしれません。
提携解消によってグッドイヤー同様にアジア・新興国における開拓を自由に行えるようになります。
また、欧米といった成熟市場では、トップ3に入る市場支配力が必要ですが、グッドイヤーではもはや役不足、新たな提携相手を求める可能性が指摘されいます。
さらには、住友ゴムには欧州などで高い支持を得ているファルケンというブランドも存在します。
ところで、住友ゴムの業績推移グラフをもう一度見てください。2010年以降の売上の伸びを経常利益の伸びが大きく上回っていることがわかります。
当たり前のことなのですが、これが規模の経済性ということなのです。
固定費は売上の増加には直接的に連動して増加しませんから、売上が伸びるとき利益は加速度的に伸びます。
特に固定費の多い企業ほどこの傾向は大きくなります。
少し気になりましたので、住友ゴムの2009年以降の売上と経常利益の関係から、回帰分析によって、変動費率と固定費額とを推定してみました。
これをベースに仮に現在の売上高から上下10%・20%増減した場合の経常利益を試算したのが下の表です。
このケースでは、経常利益は約20%・40%増減することになります。
売上の増減の倍のペースで経常利益が上下するというわけです。
しかし、変動費率78.82%というのは製造業としては結構高い水準ですから、さらに変動費率が低く固定費の構成が大きい会社になると、この上下幅はもっと大きくなるということです。
売上規模が大事だという意味は管理会計的には少なくとも2つの観点から説明できます。
ひとつは、すでに申し上げました規模の経済性です。
固定費が売上の増加に伴って増加しませんから単位当たりの固定費は減少する、それが規模の経済性の基本原理です。
ただ、売上を増やすために価格を下げた場合は、この効果は限定的となります。
もう一つは経験効果、累積生産量が増加するほど単位当たりのコスト(特に労務費などの加工費)は低減します。
たとえば、累積生産量が2倍になるごとに、平均の投入時間は80%になる、などです。
このことから、競争相手よりも早く経験をつむために高いシェアを獲得することが大切であるとなります。
かなり古典的な理論ですが、資本集約度がますます高まる現代、規模の重要性は見過ごせません。
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